Monday, September 10, 2007

イチロー、大台到達に進化の手応え「マイナスがゼロに」

2007年9月4日 (火) 8:01 MAJOR.JP


【ニューヨーク3日=丹羽政善】初回、イチローがいきなりロジャー・クレメンスからライト前ヒット。試合開始から5分も経っていなかった。リーチをかけて望んだ2打席目は、同点の3回。やはり先頭で打席に立つと、カウント0−2からの3球目をとらえ、打球を右中間スタンドの最前列に運んだ。

 打った瞬間の感想を、イチローはこう振り返る。

「この球場なら、という感じ。普通でいうなら、抜けてほしいと思うところだよね。ニューヨークだったって途中で思って…という感じかな」

 走りながら、悦に入る。

「しばらく出てないホームランがここで出るって、なんかあるよね。ちょっといい感じだなと思っちゃった。『おお、いい感じ、いい感じっ』って」

 試合展開の中でも大きな本塁打だった。9連敗中のマリナーズは、ワイルドカードを争っているヤンキースに先行を許す。2回に追いつき、先に勝ち越したいケース。イチローの本塁打は、ぐっと流れを引き寄せた。

 連敗中のチーム。雰囲気はやはり、「最悪だった」という。その中でも、ヒットを積み重ねる。イチローは言った。

「どんな状況でも、個人の仕事はやらなきゃいけない。そこで同じように数字を残すことっていうのは、マストですね」

 その中で見えて来たこと——。今年は200本達成前に、ニンマリとするような収穫を得ていた。

「170安打から190安打の間。それは、去年苦しんだ期間だったんですけど、そこを超えたいなあと思っていた。そこを強く意識してプレーして、超えた。そこを超えたことの方が、今回はうれしい」。

 過程では、技術的な手応えを感じたよう。ただそれは、「プラス」ではないと、逆説的に言った。

「これまでとは違う。少なくとも去年とは違う。マイナスがゼロになったという感じですね」

 昨年までは、達成が間近になると、邪念が生まれた。そこに惑わされ、苦しんだ。今年、そこが消えたがゆえに、「マイナスがゼロになった」という感覚が生まれたようだ。

 話を変化を必要とした技術的なことに戻せば、こう言っている。

「去年変えたことがあって、それを続けてくつもりだったんですけど、それがどうやら違ったんでね。シーズン中に変わっていたことです」

 具体的なことには触れぬも、自分だけが確信する感覚。それが首位打者奪回をも射程圏に入れた選手の自信とも映った。

 さて、記念ボールである。

 スタンドに飛び込んだことで、イチローも心配したよう。ただ、ヤンキースファンが、グラウンドに投げ返した。まず、それを拾ったライトのボビー・アブレイユは、そのボールの意味に気付いていないようだったが、セカンドのロビンソン・カノが、ボールを渡せと、必死にアピール。おそらく記録のことを知っていたカノは、それを三塁ベースコーチのカルロス・ガルシアに投げた。

 その過程までは見ていなかったというイチローだが、手にしたボールを見つめ、彼は安どした。

「ありがとう、ありがとうと思いました。でも時々、違うボールを投げる奴がいるから、それがちょっと怖かったけど」

 はて。今回の記録では、年間最多安打を打った時のように、シールが張られた特別なボールを使用したわけではない。

 それが、本物であると、証明できるわけではないけれど。

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